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京都地方裁判所 平成3年(わ)1327号 判決 1993年1月25日

国籍

韓国(慶尚北道達城郡瑜伽面﨎渓洞七五)

住居

京都府亀岡市篠町野条馬場前二一番地の三

パチンコ店経営

橋本照夫こと 李晃英

一九四二年二月一六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官柿原和則出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金八〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、京都市左京区西院東貝川町八一番地のキャッスルビルに統括事務所を置き、京都府亀岡市篠町野条下川二九番地の一所在のパチンコ店亀岡ラッキーほか五店舗を経営するとともに、有価証券の継続的取引を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て

第一  昭和六二年分の総所得金額が一億五二四三万一二八九円、分離課税短期譲渡所得金額が一億三三六四万二四七八円(別紙1の修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額一億七一三七万九八〇〇円(別紙4の税額計算書参照)を申告納付すべき義務があったにもかかわらず、土地建物等一式でパチンコ店舗を譲渡したことに関し、売買契約金額を圧縮するなどの方法により、右所得を秘匿した上、右所得税の法定納期限である同六三年三月一五日までに、京都市右京区西院上花田町一〇番地の一所在の所轄右京税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで、右納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同六二年分の所得税額一億七一三七万九八〇〇円を免れ

第二  昭和六三年分の総所得金額が二億二五三三万三四二一円(別紙2の修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額一億二五〇五万一八〇〇円(別紙5の税額計算書参照)を申告納付すべき義務があったにもかかわらず、パチンコ店の売上の一部を除外するほか、有価証券の継続的取引を行ったことに関し、自己名義以外の借名義をも使用するなどの方法により、右所得を秘匿した上、右所得税の法定納期限である平成元年三月一五日までに、前記右京税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで、右納期限を徒過させ、もって不正の行為により、昭和六三年分の所得税額一億二五〇五万一八〇〇円を免れ

第三  平成元年分の総所得金額が一億五六六四万八二三七円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、パチンコ店の売上の一部を除外するなどの方法により、その所得の一部を秘匿した上、同二年三月一五日、前記右京税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が二五三二万六九一八円で、これに対する所得税額七五六万五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同元年分の正規の所得税額七三二二万一五〇〇円と右申告税額との差額六五六六万一〇〇〇円(別紙6の税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  収税官吏作成の被告人に対する平成二年三月二八日付け、同年四月七日付け、同月一一日付け、同月一七日付け(検第一七〇号)、同年六月一三日付け(二通)、同月二二日付け、同年八月二四日付け、同年九月一九日付け、同年一〇月一一日付け、同月一五日付け、同月二〇日付け、同月二九日付け、同年一一月二日付け、同年一二月一日付け、平成三年一月八日付け、同月一〇日付け、同月一四日付け、同月一八日付け、同年二月六日付け、同月一二日付け、同月一六日付け(二通)各質問てん末書

一  橋本康子こと金康子、岡崎昭雄及び金純任の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の那須賢、藤川和樹(三通)、橋本康子こと金康子(二通)、吉永明(平成二年三月二八日付け)、中野一範、福邑隆二郎(三通)宇野宏之、高塚孝吉、三山弘容、大塚晴夫、佐藤正、武田修、岡崎昭雄(四通)、磯橋薫(二通)、小坂義雄、山内保則、井上協二、金純任、金禎任、西村艶子、金福政(三通)、松田征二、安岡茂雄(二通)、大西稔、谷川勇(二通)、今井真(二通)、八木田晃、桑田克由、藤原清之、鈴木政雄、高島豊、李昌平、松下清吾(二通)、山本貞夫、尾谷保雄、金本一夫、佐藤武博(二通)、丸山満芳、八尾弘、姜起文、金城道雄(二通)、横川隆總(二通)、鄭朔弗、李福海(四通)、孔必泳(二通)、李乗恒、西村捷之典、三島徳辰、金澤光雄(二通)、許南赫、牧野吉晴、永川勇、太田宇佐夫及び崔吉子に対する各質問てん末書

一  検察官作成の搜査報告書

一  収税官吏宮康男作成の平成二年二月一〇日付け(検第一三号)、同年一〇月三一日付け(検第七四号、第一四六号)、同年一一月三〇日付け(検第四九ないし第五一号、第六八号、第七〇号、第七一号、第七三号、第一二七号)、同年一二月四日付け(検第一二号)、同月一〇日付け(検第一五〇号、第一五一号)、平成三年二月五日付け(検第一七号、第二六号、第三一号、第四八号、第九九ないし第一〇一号、第一〇三号、第一〇六号、第一〇八号、第一一三号ないし第一一五号、第一四四号、第一四七号、第一九五号)各査察官調査書

一  収税官吏枅田雅之作成の平成二年一一月二〇日付け(検第一四号)、同月三〇日付け(検第七二号)、同年一二月一〇日付け(検第三八号、第四四号)、平成三年二月三日付け(検第二二号)、同月五日付け(検第三九号)各査察官調査書

一  収税官吏櫻間厚弘作成の平成二年一〇月三一日付け(検第一四九号)、同年一一月三〇日付け(検第二七号、第三二号、第一四八号)、同年一二月一〇日付け(検第二九号、第三〇号、第七九号、第八二号、第八三号、第九二号、第九三号、第九五号)、平成三年一月一〇日付け(検第八六号)、同月二〇日付け(検第九六号)、同年二月五日付け(検第一〇二号、第一九六号)、同月一五日付け(検第四六号)各査察官調査書

一  収税官吏足立実次作成の平成三年二月五日付け各査察官調査書(検第二八号、第四一号、第八四号、第一二六号、第一四五号)

一  収税官吏櫻間厚弘作成の平成二年一一月一六日付け(検第四二号)、同月二一日付け(検第四三号)、平成三年二月一五日付け(検第四五号)各査察官調査報告書

一  収税官吏枅田雅之作成の平成二年一〇月一二日付け(検第六号)、平成三年一月一六日付け(検第九七号)各査察官調査報告書

一  収税官吏宮康男作成の平成二年一〇月三一日付け査察官調査報告書(検第一二八号)

一  収税官吏山口弘作成の調査報告書(検第五号)

一  被告人作成の申述書

一  岡崎昭雄作成の申述書

一  磯橋薫及び古賀慶一作成の各供述書

一  押收してあるパチンコ売上帳二冊(平成四年押第一八五号の1、2)、集計表等一綴(同号の3)及び売上伝票等一綴(同号の4)

判示第一及び第二の各事実につき

一  収税官吏櫻間厚弘作成の平成二年一一月三〇日付け査察官調査書(検第一五号)

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の被告人に対する平成二年三月三〇日付け、同年四月二日付け各質問てん末書

一  収税官吏桜間厚弘作成の同年一一月三〇日付け査察官調査書(検第一六号)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(検第一五五号)

判示第二及び第三の各事実につき

一  収税官吏作成の吉永明に対する平成二年九月二一日付け質問てん末書

一  収税官吏櫻間厚弘作成の同年一一月三〇日付け各査察官調査書(検第一八号、第一九号、第二〇号)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の被告人に対する平成二年四月一七日付け(検第一七一号)、平成三年一月二三日付け各質問てん末書

一  収税官吏作成の脱税額計算書(検第一五六号)

判示第三の事実につき

一  収税官吏櫻間厚弘作成の平成三年二月五日付け査察官調査書(検第四七号)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(検第一五七号)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、各罪とも所定の懲役刑と罰金刑を併科し、なお情状により罰金刑につき同条二項を各適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金八〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件犯行の動機は、被告人が昭和五八年ころから心臓発作をたびたび起こすようになって、自己の健康に不安を感じ、少しでも多くの資産を妻子に残してやりたいとの思いと、多額の貸倒れによる損失を受けたことから、その埋合せをするため、脱税を企てたというものであって、当時の被告人の資力等からすると、必ずしも同情に値するものとはいい難い。また、犯行の態様も、パチンコ店舗の土地建物等一式を譲渡したことに関し、売買契約金額の圧縮をしたり、自己が保管する他社のゴム印等を悪用して架空の領収書を作成したりし、あるいは、有価証券の継続的取引により多額の利益を得ていたのに、自己名義以外に家族名義や借名義をも使用することにより、課税対象となる年間売買回数を分散させ、あるいは、パチンコ店の売上に関してその一部を除外する等の方法を講じるなど、いずれも大胆かつ巧妙である。さらに、ほ脱額も三か年で合計三億六二〇九万二〇〇〇円もの多額に及んでおり、そのほ脱率も平均約九八パーセントと極めて高率である。これらの事情に照らすと、被告人の刑事責任にはかなり重いものがあるから、この種事犯を一般的に予防するために、ここで被告人を懲役の実刑に処することも十分に考えられるところである。

しかしながら、他方、本件不動産譲渡所得の分の脱税については、いわゆる土地転がしによる儲けを隠匿したものではなく、自己の事業規模を縮小してゆく過程において行ったものであること、被告人には業務上過失傷害罪による罰金前科が一犯あるものの、そのほかに前科はないこと、平素の生活態度にも格別問題のないこと、本件については搜査、公判を通じて素直に犯行を認め、搜査にも積極的に協力していること、現在までのところ、いわゆるバブル経済の崩壊により多額の借金を負っていて、本件納税を済ませていないが、近い将来その所有する不動産を売却してこれを右未納分の納税等に充てる旨約しており、更生の意欲が認められること、更には、前記のとおり狭心症の持病がある上、一家の支柱でもあることなどの被告人に有利な事情もあるので、これらをも考慮して、被告人を主文の刑で処断し、今回はその懲役刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白井万久 裁判官 松尾昭一 裁判官 遠藤俊郎)

別紙1

修正損益計算書(合計表)

<省略>

修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙2

修正損益計算書(合計表)

<省略>

修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙3

修正損益計算書(合計表)

<省略>

修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙4

脱税額計算書

<省略>

犯則税額

<省略>

別紙5

脱税額計算書

<省略>

犯則税額

<省略>

別紙6

脱税額計算書

<省略>

犯則税額

<省略>

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